8月の家族たち

「8月の家族たち」はメリル・ストリープ、ジュリア・ロバーツ、ユアン・マクレガー、ジュリエット・ルイスら豪華キャストによる家族ドラマです。

脚本が非常に優れていて、会話を中心に物語が進行し、セリフのやりとりが絶妙なのが特徴で、こういったタイプの映画を英語で直接理解できるようになると、字幕で見るのとはまた違った面白味を感じるはずです。

会話は多少聞き取りずらく、難しい言葉もでてきますが、何度も見るとその度に発見があるのでぜひ複数回鑑賞して勉強してみましょう。

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8月の家族たちの名場面

ウェストン一家の母親バイオレット(メリル・ストリープ)は家族一のトラブルメーカーで、なにかと3人の娘たちに当たり散らします。口が悪く、下品で、理不尽な母親バイオレットに娘たちは愛おしさと同時に憎しみを抱きます。

バイオレットが癌になってからも娘たちはあまり彼女の面倒を見たがらず、お互いに微妙な距離を置きます。ウェストン一家の屈折した関係はしかしバイオレットだけに原因があるのではなく、バイオレットの幼少時代、母親にぞんざいに育てられたことに起因し、そのことが会話のところどころで明らかになります。次のシーンはそんな会話のひとつです。

バイオレット(メリル・ストリープ):Hey, did I ever tell you the story of Raymond Qualls? That’s a boy I had a crush on when I was thirteen or so. Rough-looking boy, beat-up jeans and messy hair. Terrible underbite.
ねえ、あなたたちに レイモンド・クオールズの話したことあったっけ? 13歳だかに私が恋した少年でね、ボロボロのジーンズにボサボサヘアのラフな格好している少年だったの。ひどいシャクレでね。

to have a crush on someone で「誰々に恋する」という表現になります。

バイオレット:But he had the most beautiful cowboy boots, shiny chocolate leather. He was so proud of those boots, you could tell, the way..he just strutted around, all arms and elbows, puffed up and cocksure. I convined myself that I needed to get a girly pair of those boots;

だけど、彼は世界一素敵なカウボーイブーツを持ってたの。ピカピカしたチョコレート色の皮のね。彼はそのブーツを自慢に思ってたの。肩で風を切るような得意げな威張った歩き方を見ればわかるわよ。私は確信したの、あれのレディースのブーツを手に入れなきゃって。

to be proud of ~で「~を誇りに思う」、「自慢に思う」という意味になります。to strut aroundは「周囲に誇示する」といった意味があります。you can tell~はこの場合、「言うことができる」という意味ではなく、「(彼がブーツを自慢に思っていることなんて)分かる」という意味で使われています。

バイオレット:and I was sure if I did that that he would ask me to go steady. You know, He’d see me in those boots and just say that’s the girl for me. Oh, gosh! So, I found the boots in a window downtown, And, I just went crazy!

もし手に入れれば、彼は私と付き合ってくれるって。私がそのブーツを履いてるところを見たら、彼は「あの子こそ僕の女だ」って言うだろうって。まったくねえ。それで私はそのブーツをダウンタウンのある店のウィンドーで見つけたの。そしたら私舞い上がっちゃって。

to go steadyは「恋人になる」、「ちゃんと交際する」という意味です。to go crazyは「気が狂う」、「あたまがおかしくなる」という言い回しです。

バイオレット:Praying for those boots, I’m rehearsing the.. conversation that I would have with Raymond when he saw me in my boots. (I)Must have asked my momma a hundred times if I could just get those boots. “Vi, What do you want for Christmas?”  “Momma, I give it all up just to have those boots.”  Bargaining..

そのブーツが欲しくて祈ってたの。レイモンドがブーツを履いてる私を見たときの会話の練習までしてね。お母さんに百回ぐらいあのブーツが欲しいって頼んだわ。そしたら、「バイオレット、クリスマスにはなにが欲しい」って聞くから、あのブーツのためならなんでも我慢するからって言ったりして、交渉してね。

to rehearse は「リハーサルをする」、「稽古をする」。「Vi」はバイオレットに対する呼び名です。to bargainはこの場合、「取引する」、「交渉する」といった意味で使われています。

バイオレット:So, She started laying little hints around about a box. There is a package under the tree.. she had wrapped up, about the size of a boot box, Real nice wrapping paper. “Now, Vi, don’t you cheat  and don’t you go in there before Christmas morning.”  Little smile on her face.

そしたらお母さんは、ヒントを出してきてね、木の下に箱があるからって。ちょうどブーツの箱と同じくらいの大きさの入れ物で、とても素敵な包装紙を使っていたの。お母さんは「いいかいバイオレット、ずるしちゃだめよ、クリスマスの朝になるまでそこに行っちゃだめだよ」って。少し微笑みながらね。

don’t you cheatのように「don’t」の後に「you」が来ても「~をするな」という否定命令文になります。

バイオレット:Christmas morning, I was up like a shot, boy, under the tree, I was tearing the paper…There were boots in there, men’s work boots, holes in the toes, chewed up laces and..

クリスマスの朝になったら、私は弾丸のように、木の下に飛んでいったの。包装紙を破ると、そこにはブーツがあったの。男性の業務用のブーツが。つま先には穴が開いてて、靴紐は傷んでて。

like a shotで「鉄砲玉のように」という表現です。

バイオレット:caked in mud.. Caked in mud and dog shit. Lord, my momma laughed for days.

泥まみれで。泥まみれなうえに、犬の糞までついてて。まったく、お母さんは(私を見て)何日も笑ってたわ。

「caked with~」、あるいは、「caked in~」で「~で厚く塗られた」、「~でどろどろになった」という意味になります。

バーバラ(ジュリア・ロバーツ):Please, don’t tell me that’s the end of the story.

お願いだから、それで終わりだなんて言わないでよ。

the end of the storyは「話の終わり」、「話のオチ」といった意味があります。

バイオレット:Oh, no. That.. That’s the end.

ああ、ううん。それで終わりよ。

バイオレットが自分の母親にまっすぐな愛情を受けてこなかったこと、皮肉な性格は母親譲りなことをよく表す会話でした。バイオレットが娘たちに当たり散らすのには実は同じことを母親にやられてきたからで、そのDNAを継いでいるのがよくわかるシーンでした。

また、そんなバイオレットの性格を一番継いでるのがほかでもない長女のバーバラなのです。冷静に聞くとひどいエピソードですが、その中にもアメリカ人なりのブラックユーモアが含まれており、そのニュアンスも感じ取れれば笑えるシーンでもあり、ダブルの楽しみがある深い演出でしたね。